皿屋敷 田中貢太郎 青空文庫より~

皿屋敷 田中貢太郎 青空文庫より〜  番町ばんちょうの青山主膳あおやましゅぜんの家の台所では、婢げじょのお菊きくが正月二日の昼の祝いの済んだ後の膳具ぜんぐを始末していた。この壮わかい美しい婢は、粗相して冷酷な主人夫婦の折檻せっかんに逢あわないようにとおずおず働いているのであった。  その時お菊のしまつしているのは主人が秘蔵の南京古渡なんきんこわたりの皿であった。その皿は十枚あった。お菊は…

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番町皿屋敷 岡本綺堂 青空文庫より〜③

番町皿屋敷 岡本綺堂 青空文庫より〜③               五  それから又十日ほど経って、播磨は渋川の屋敷へ呼ばれた。それは縁談の返事の催促に相違ないとお菊は思った。彼女は小石川から帰った主人の顔色によってその模様を判断しようとあせったが、年の若い、しかも恋にくらんでいる彼女の陰った眼では、…

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番町皿屋敷 岡本綺堂 青空文庫より〜②

番町皿屋敷 岡本綺堂 青空文庫より〜② 三  それから二日目の朝である。お菊がいつものように台所へ出て、お仙の手伝いをしていると、奴の権次が肩をすくめて外からはいって来た。 「お客来じゃ。お客来じゃ」 「お客来……」と、お菊は片付け物の手を休めた。「どなたでござりまする」 「いや、むずかしいお客様じゃ。殿様にも苦手、俺たちにも禁物、見付からぬように隠れているのが一の手じゃ」 …

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番町皿屋敷 岡本綺堂 青空文庫より〜①

番町皿屋敷 岡本綺堂 青空文庫より〜① 一 「桜はよく咲いたのう」  二十四五歳かとも見える若い侍が麹町こうじまちの山王さんのうの社頭の石段に立って、自分の頭の上に落ちかかって来るような花の雲を仰いだ。彼は深い編笠あみがさをかぶって、白柄しろつかの大小を横たえて、この頃流行はやる伊達羽織だてばおりを腰に巻いて、袴はかまの股立ももだちを高く取っていた。そのあとには鎌髭かまひげのいかめしい…

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