両国の秋 岡本綺堂 青空文庫より〜④

両国の秋 岡本綺堂 青空文庫より〜④ 十  その晩の四つ(十時)過ぎに、林之助は屋敷へ帰った。 「どうも遅くなって済まないね」  門番のおやじに挨拶して、彼は自分の部屋にはいった。うすら寒い雨の夜をあるいて来て、内へはいると急に酒の酔いが発したらしく、彼はかっかとほてる頬をおさえて自分の小さい机の上にしばらく俯伏していた。それからしずかに起ちあがって、戸棚から蒲団と衾よぎをひき出…

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両国の秋 岡本綺堂 青空文庫より~③

両国の秋 岡本綺堂 青空文庫より~③ 七 「まあ、誰から来たんだろうね」  大きい鮓すしの皿を取りまいて、楽屋じゅうの者が眼を見あわせていた。お此が嚇されて帰ったあとへ、木戸番の又蔵またぞうが鮓屋の出前持ちと一緒に楽屋へはいって来て、お絹さんへといってその鮓の皿を置いて行った。 「誰が呉れたの」と、お花が訊いた。 「あとで判りやす」  又蔵は笑いながら行ってしまった。…

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両国の秋 岡本綺堂 青空文庫より~②

両国の秋 岡本綺堂 青空文庫より~② 四 「林さん。お前さん、お互いにこうしていては詰まらないとお思いでないかえ」  お絹はしずかに煙管をはたきながら、またしても男のこころを探るような疑いぶかい眼をして訊いた。林之助もまともに向き直らないわけにいかなくなった。 「つまる、つまらないの論じゃない。いつも言う通り、今がお互いの辛抱どきだ。そりゃあこうして離れていれば、おれだって寂…

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