東京に生れて 長谷川時雨 青空文庫より〜

東京に生れて 長谷川時雨 青空文庫より〜  大東京の魅力に引かれ、すつかり心醉しながら、郷里の風光に思ひのおよぼすときになると、東京をみそくそにけなしつける人がある。どうもそんな時はしかたがないから、默だまつて、おこがましいが、土地ツ子の代表なやうに拜聽してゐる。  大震災のあとであつた、ある劇作家が言つた。 「東京つて、起伏をもつてゐる好いところだ。昔は、さぞ好い景色だつたらう。…

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四百年後の東京 正岡子規 青空文庫より~

四百年後の東京 正岡子規 青空文庫より〜 神田川  都会の中央、絶壁屏風の如く、緑滴したたり水流れ、気清く神静かに、騒人は月をここに賞し、兇漢は罪をここに蔵す、これを現今の御茶の水の光景とす。紅塵万丈こうじんばんじょうの中この一小閑地を残して荒涼たる山間の趣を留む、夫かの錙銖ししゅを争ふ文明開化なる者に疑ひなき能はざるなり。不折ふせつが画く所、未来の神田川、また余輩と感を同じうせし者…

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水の東京 幸田露伴 青空文庫より~

水の東京 幸田露伴 青空文庫より〜 上野の春の花の賑ひ、王子の秋の紅葉の盛り、陸の東京のおもしろさは説く人多き習ひなれば、今さらおのれは言はでもあらなん。たゞ水の東京に至つては、知るもの言はず、言ふもの知らず、江戸の往時むかしより近き頃まで何人なんびともこれを説かぬに似たれば、いで我試みにこれを語らん。さはいへ東京はその地勢河を帯にして海を枕せる都なれば、潮しおのさしひきするところ、船の上り…

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日和下駄 一名 東京散策記 永井荷風 青空文庫より〜②

日和下駄 一名 東京散策記 永井荷風 青空文庫より〜② 第六 水 附渡船  仏蘭西人(フランスじん)エミル・マンユの著書『都市美論』の興味ある事は既にわが随筆『大窪(おおくぼ)だより』の中(うち)に述べて置いた。エミル・マンユは都市に対する水の美を論ずる一章において、広く世界各国の都市とその河流及び江湾の審美的関係より、更に進んで運河沼沢(しょうたく)噴水橋梁(きょうりょう)…

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日和下駄 一名 東京散策記 永井荷風 青空文庫より~①

日和下駄 一名 東京散策記 永井荷風 青空文庫より〜①序 東京市中散歩の記事を集めて『日和下駄』と題す。そのいはれ本文のはじめに述べ置きたれば改めてここには言はず。『日和下駄』は大正三年夏のはじめころよりおよそ一歳あまり、月々雑誌『三田文学』に連載したりしを、この度米刃堂へいじんどう主人のもとめにより改竄かいざんして一巻とはなせしなり。ここにかく起稿の年月を明あきらかにしたるはこの書板はん…

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東京の風俗 木村壮八 青空文庫より~②

東京の風俗 木村壮八 青空文庫より~② 十一、生活の色  世の中の一変した有様は終戦後三年にして、省線電車の環状線を一周りして「車内の生活」を見ただけでも、明らかとなり、旧時代の色は一と先づかき消されて、新しい「色」がそこに塗られたやうである。恐らくこの「色」は、塗られたにしても、一時の扮色であつて、やがて又変るであらう。変らなければならないとも思ひ、これが地色であつては、「時代…

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東京の風俗 木村壮八 青空文庫より〜①

東京の風俗 木村壮八 青空文庫より〜①      一、東京「パースペクチヴ」  亡友岸田劉生が昔、そのころ東京日日だつた今の毎日新聞へ、東京繁昌記の画文を寄せて、「新古細句銀座通」=しんこざいくれんがのすぢみち=と題する戯文をものしたことがある。(昭和二年)戯文といつても筋の通つたものだし、殊に絵は出色のものだつたが、仕事の範囲の相当手ひろかつた故人にしては珍らしく、印刷ものにこ…

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ああ東京は食い倒れ 古川緑波 青空文庫より~

ああ東京は食い倒れ 古川緑波 青空文庫より〜  戦争に負けてから、もう十年になる。戦前と戦後を比較してみると、世相色々と変化の跡があるが、食いものについて考えてみても、随分変った。  ちょいと気がつかないようなことで、よく見ると変っているのが、色々ある。  先ず、戦後はじめて、東京に出来た店に、ギョーザ屋がある。  以下、話は、東京中心であるから、そのつもりで、きいていただきたい。 …

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東京八景 太宰治 青空文庫より~

東京八景(苦難の或人に贈る)太宰治 伊豆の南、温泉が湧き出ているというだけで、他には何一つとるところの無い、つまらぬ山村である。戸数三十という感じである。こんなところは、宿泊料も安いであろうという、理由だけで、私はその索寞さくばくたる山村を選んだ。昭和十五年、七月三日の事である。その頃は、私にも、少しお金の余裕があったのである。けれども、それから先の事は、やはり真暗であった。小説が少しも書け…

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